第91回夏期講習会プログラム 各講義の概要

8月2日(月)10:00-17:15

1. 折茂 慎一(水素機能材料工学研究部門) 
 「錯体水素化物の材料科学 -ハイドロジェノミクスの視点-」

 水素を含む様々な物質(水素化物)を従来とは異なる視点で研究対象とした、新たなエネルギー関連機能の研究が活発化しています。講演では、錯体水素化物でのリチウムやマグネシウム、カルシウムなどの高速イオン伝導機能、そしてそれらを用いた蓄電デバイス応用などについてお話します。さらに、多彩な水素化物をターゲットとした大型研究プロジェクト「ハイドロジェノミクス」についてもご紹介します。

2. 久保 百司(計算材料学研究部門) 
 「スーパーコンピュータ”MASAMUNE-IMR”を活用した大規模計算科学シミュレーション」

 東北大学金属材料研究所のスーパーコンピュータ”MASAMUNE-IMR”を活用することで、百万原子~1憶原子系の全原子分子動力学シミュレーションが可能となり、従来は原子レベルの計算科学シミュレーションの対象とは考えられていなかった研究課題の解決にも、計算科学が応用可能となってきました。本講演では、そのような大規模計算科学がもたらすパラダイムシフトについてご紹介させて頂ければと思います。

3. 藤原 航三(結晶物理学研究部門) 
 「半導体材料の一方向凝固の基礎と応用」

 太陽電池用シリコン多結晶等の半導体バルク多結晶材料は一方向凝固法により作製される。通常、半導体材料は、金属合金のように加工熱処理などによる結晶化後の組織制御が困難であるため、一方向凝固過程に多結晶組織を制御する必要がある。本講演では、一方向凝固過程で生じる、核形成、粒成長、固液界面不安定化など様々な現象の基礎を概説し、太陽電池用シリコン多結晶の組織制御の現状について紹介する。

4. 加藤 秀実 (非平衝物質工学研究部門) 
 「ナノマイクロポーラス金属の作製と応用」

 合金の脱成分反応を利用すると、ナノからマイクロメートルサイズの開気孔が共連続に繋がった多孔質金属を自己組織化することができる。酸やアルカリ水溶液を用いた化学的脱成分方法、冶金反応を利用した金属溶湯脱成分法および高温真空中での気相脱成分法についてまとめ、その応用例を紹介する。

5. 千葉 晶彦(加工プロセス工学研究部門) 
 「金属積層造形技術の基礎と応用」

 金属積層造形技術について解説する。電子ビームおよびレーザーを用いた粉末床溶融結合(PBF)法について、レーザー指向性エネルギー堆積(DED)法について、および熱溶解積層(FDM)法について実例を紹介し、それぞれのプロセスの特徴について概説する。後半は、PBF法を中心として、実験結果をベースに理論的な側面から解説する。まとめとして、金属積層造形技術が未来の製造業のDX化において期待される役割について述べる。

企画講演)吉川 彰(産学官連携講演) 
 「研究成果を社会実装する手段としての大学発ベンチャー」

 日本は「第4次ベンチャーブーム」の最中におり、大学もシーズを活かしてベンチャーを作ることが求められている。本学にも投資事業有限責任組合が設立され、ピッチコンテストなどが開催され、そこではシーズを持った研究者がVCと共に上場による大金獲得を目指すことが推奨されている。最近では「大学発ベンチャーを育てること」自体もビジネスになりつつある。忘れられがちだが、大学発ベンチャーには、もう一つの重要な役割として「研究成果を社会実装する手段」としての位置づけがある。当日は、幾つかの例や問題点を挙げて、普段はあまり注目されない「研究成果を社会実装する手段」としての役割について一緒に考えたい。